大規模な地震や豪雨のたびに、非常災害対策本部と緊急災害対策本部という名称がニュースで使われます。似た名称ですが、設置の要件も本部長を務める人も異なる、別々の組織です。
災害対策基本法は、非常災害対策本部を第24条と第25条で、緊急災害対策本部を第28条の2から第28条の6までで、それぞれ別の条文として定めています。この記事では、条文の規定に沿って、設置される災害の規模や設置手続き、本部長の顔ぶれ、これまでの設置実績を整理し、両者の違いを具体的に示します。
本部の名称が持つ意味を知っておくと、地震や台風のニュースで政府の対応段階を正確に読み解く助けになります。本部長が誰であるかや設置の手続きに注目しながら、まずは両者の違いを一覧で確認したうえで、それぞれの制度を詳しく見ていきましょう。
非常災害対策本部と緊急災害対策本部の違いを一覧で整理
非常災害対策本部と緊急災害対策本部は、どちらも災害対策基本法に基づいて内閣府に臨時に設置される組織です。名称は似ていますが、設置される災害の規模や設置の手続き、本部長を務める人には明確な違いがあります。この章では、両者の違いを表で整理したうえで、代表的な事例を確認します。
設置の根拠となる条文の違い
非常災害対策本部は、災害対策基本法第24条に規定されています。同条では、非常災害が発生した場合において、当該災害の規模その他の状況により災害応急対策を推進するため特別の必要があると認めるときに、内閣総理大臣が内閣府に臨時に設置できるとされています。
一方、緊急災害対策本部は同法第28条の2に規定があります。著しく異常かつ激甚な非常災害が発生した場合において、特別の必要があると認めるときに設置される点が異なります。条文の文言を比べると、緊急災害対策本部の設置には、より高い被害の程度が想定されていることが分かります。
設置される災害の規模の違い
非常災害対策本部は、台風や豪雨、地震など、災害応急対策を全国的な調整のもとで進める必要がある規模の災害で設置されます。内閣府の資料によると、昭和38年の豪雪地帯非常災害対策本部から令和6年能登半島地震非常災害対策本部まで、これまでに数十件の設置例があります。
これに対し、緊急災害対策本部は、著しく異常かつ激甚な非常災害という、より限定的な要件のもとで設置されます。実際に設置されたのは、平成23年の東北地方太平洋沖地震における1例にとどまります。設置件数の差からも、両者の位置づけの違いが読み取れます。
本部長を務める人の違い
非常災害対策本部の本部長は、災害対策基本法第25条により内閣総理大臣が務めます。この規定は令和3年の法改正で見直されたもので、それ以前は国務大臣が本部長を務める仕組みでした。令和8年7月の熊本地震では、高市早苗内閣総理大臣が非常災害対策本部長として会議に臨んでいます。
緊急災害対策本部の本部長も同法第28条の3により内閣総理大臣が務めますが、副本部長には非常災害対策本部長及び副本部長以外のすべての国務大臣が充てられる点が異なります。全閣僚が本部の構成員となることで、政府一体としての対応体制が敷かれます。
設置手続きにおける閣議決定の有無
非常災害対策本部の設置について、災害対策基本法第24条は、内閣総理大臣が内閣府設置法の規定にかかわらず臨時に設置できると定めています。条文上、設置に際して閣議にかけることは明記されていません。
これに対し、緊急災害対策本部の設置を定める第28条の2では、内閣総理大臣が閣議にかけて臨時に設置すると明記されています。設置に閣議決定という手続きを経る点は、緊急災害対策本部が国全体の意思決定として位置づけられていることを示しています。
| 項目 | 非常災害対策本部 | 緊急災害対策本部 |
|---|---|---|
| 根拠条文 | 第24条 | 第28条の2 |
| 設置要件 | 非常災害の発生 | 著しく異常かつ激甚な非常災害の発生 |
| 設置手続き | 内閣総理大臣が設置 | 閣議にかけて設置 |
| 本部長 | 内閣総理大臣 | 内閣総理大臣 |
| 副本部長・構成員 | 関係閣僚など | 本部長以外の全国務大臣 |
| 設置実績 | 数十件 | 1件(東日本大震災) |
ニュースで政府の対応段階を見分けるときは、会議の名称に注目すると分かりやすくなります。例えば令和8年熊本地震非常災害対策本部会議という名称であれば、非常災害対策本部が設置されている段階だと判断できます。会議の名称に緊急の文字が入っているかどうかを確認すると、両者を区別しやすくなります。
- 非常災害対策本部は第24条、緊急災害対策本部は第28条の2に根拠がある
- 緊急災害対策本部の方が想定する被害の程度が大きい
- 緊急災害対策本部の設置には閣議決定という手続きが必要
- これまでの設置実績は非常災害対策本部が多数、緊急災害対策本部は1件のみ
非常災害対策本部の仕組みと設置の流れ
非常災害対策本部は、災害応急対策を全国的な視点で調整するために設置される組織です。この章では、設置の要件や本部の構成、権限の範囲について、条文に沿って確認します。
設置の要件(災害対策基本法第24条)
災害対策基本法第24条は、非常災害が発生した場合において、当該災害の規模その他の状況により災害応急対策を推進するため特別の必要があると認めるときに、内閣総理大臣が内閣府に非常災害対策本部を設置できると定めています。
内閣総理大臣は、本部を設置したときは、本部の名称、所管区域、設置の場所及び期間を直ちに告示しなければならないと定められています。本部が担当する地域は、この告示によって明らかにされます。本部を廃止したときも、同様に告示が行われます。
本部長と本部員の構成
非常災害対策本部の長は非常災害対策本部長とされ、内閣総理大臣が充てられます。内閣総理大臣に事故があるときは、あらかじめ指名された国務大臣がその職務を代理します。
本部には非常災害対策副本部長や本部員も置かれ、内閣官房や関係省庁の職員のうちから内閣総理大臣が任命します。所管区域内で現地対策を行う組織として、非常災害現地対策本部を置くこともでき、現地の状況を踏まえた迅速な対応につなげる仕組みになっています。
権限の範囲と告示区域
非常災害対策本部長は、所管区域における災害応急対策を的確かつ迅速に実施するため特に必要があると認めるときは、関係する指定行政機関の長や地方公共団体の長などに対して必要な指示を行うことができます。
この権限が及ぶ範囲は、設置の際に告示された区域に限られます。全国一律の権限ではなく、当該災害に関係する地域を対象とする点は、押さえておくとよい特徴です。権限の一部は、現地対策本部長に委任することもできます。
これまでの設置実績
内閣府の資料によると、非常災害対策本部は昭和38年の豪雪地帯非常災害対策本部を最初の例として、これまでに数十件設置されてきました。平成30年7月豪雨や令和元年台風第19号、令和6年能登半島地震などでも設置されています。
令和8年7月には、熊本県で最大震度7を観測した地震を受けて、非常災害対策本部が設置されました。首相官邸の発表によると、高市早苗内閣総理大臣が本部長として会議に出席し、今後の地震活動への注意を呼びかけています。
根拠は災害対策基本法第24条
本部長は内閣総理大臣
権限は告示された区域内に限られる
これまでに数十件設置されている
Q. 非常災害対策本部はどのくらいの期間設置されますか。
A. 設置の期間は災害ごとに異なり、告示で示されます。応急対策が落ち着いた段階で廃止され、その旨が告示されます。
Q. 非常災害対策本部が設置されると住民の生活はどう変わりますか。
A. 本部そのものは政府内の調整組織であるため、住民への直接的な手続きが生じるわけではありません。ただし、関係省庁の対応や情報発信が本部を通じて一元化されます。
- 非常災害対策本部の根拠は災害対策基本法第24条
- 本部長は内閣総理大臣、権限は告示区域に限られる
- 設置には内閣総理大臣による告示が必要
- これまでに数十件の設置実績がある
緊急災害対策本部の仕組みと設置の流れ
緊急災害対策本部は、非常災害の中でも著しく異常かつ激甚な場合に設置される組織です。この章では、設置要件や閣議決定という手続き、全閣僚体制について確認します。
設置の要件(著しく異常かつ激甚な非常災害)
災害対策基本法第28条の2は、著しく異常かつ激甚な非常災害が発生した場合において、当該災害に係る災害応急対策を推進するため特別の必要があると認めるときに、緊急災害対策本部を設置できると定めています。
非常災害対策本部の要件が非常災害の発生であるのに対し、緊急災害対策本部の要件には著しく異常かつ激甚なという限定が加わります。条文上、より深刻な被害を想定した規定であることが分かります。国の経済や社会全体に及ぶ影響の大きさが、判断の前提になっています。
閣議にかけるという設置手続き

同条は、緊急災害対策本部の設置にあたり、内閣総理大臣が閣議にかけて臨時に内閣府に設置すると定めています。非常災害対策本部の設置規定にはない閣議にかけてという文言が加わっている点が特徴です。
また、当該災害についてすでに非常災害対策本部が設置されている場合、緊急災害対策本部の設置に伴い非常災害対策本部は廃止され、緊急災害対策本部がその事務を引き継ぐことも定められています。閣議という手続きを経ることで、政府全体としての意思決定であることが明確になります。
内閣総理大臣を本部長とする全閣僚体制
緊急災害対策本部の長は緊急災害対策本部長とされ、内閣総理大臣が充てられます。内閣総理大臣に事故があるときは、あらかじめ指名された国務大臣が職務を代理します。
緊急災害対策副本部長には国務大臣が充てられ、緊急災害対策本部長及び副本部長以外のすべての国務大臣が本部員となります。内閣危機管理監も本部員に加わり、政府全体が一つの体制として対応にあたる仕組みになっています。非常災害対策本部と比べて、参加する閣僚の範囲が広い点も特徴です。
東日本大震災における設置事例
緊急災害対策本部が設置された唯一の例は、平成23年(2011年)の東北地方太平洋沖地震です。内閣府の資料によると、当時の内閣総理大臣を本部長とする緊急災害対策本部が、地震発生の当日に設置されています。
日本大百科全書の解説によると、平成7年の阪神・淡路大震災の際に非常災害対策本部の設置や初会合の開催に時間を要した経緯があり、この経緯を踏まえて、東日本大震災では発生から短時間で緊急災害対策本部が設けられました。
根拠は災害対策基本法第28条の2
設置には閣議決定が必要
本部長は内閣総理大臣、副本部長以外の全国務大臣が本部員
設置例は東日本大震災の1件のみ
緊急災害対策本部という名称がニュースで使われる場面は限られています。過去には東日本大震災の際に一度使われており、令和6年能登半島地震や令和8年熊本地震では、いずれも非常災害対策本部の段階にとどまっています。ニュースで名称を確認する際は、この設置実績の少なさも判断材料になります。
- 緊急災害対策本部の根拠は災害対策基本法第28条の2
- 設置には閣議決定という手続きが必要
- 本部長以外の全国務大臣が本部員となる
- 設置例は東日本大震災の1件のみ
非常災害対策本部から緊急災害対策本部へ切り替わる仕組み
同じ災害であっても、状況によっては非常災害対策本部から緊急災害対策本部へ切り替わることがあります。この章では、切り替えの規定と、実際にはあまり例がない背景を確認します。
非常災害対策本部が廃止され事務を引き継ぐ規定
災害対策基本法第28条の2第3項は、緊急災害対策本部が設置された場合において、当該災害に係る非常災害対策本部がすでに設置されているときは、当該非常災害対策本部は廃止され、緊急災害対策本部がその事務を引き継ぐと定めています。
つまり、同じ災害について2つの本部が並行して存在することはなく、より上位の緊急災害対策本部に一本化される仕組みになっています。事務を引き継ぐため、応急対策の連続性が保たれる点も特徴です。
切り替えの判断材料となる被害規模
切り替えの判断は、被害の規模や社会経済への影響の大きさをもとに、内閣総理大臣が行います。条文上は具体的な数値基準が示されているわけではなく、著しく異常かつ激甚であるかどうかという評価に基づきます。
東日本大震災の場合、地震の規模に加えて、福島第一原子力発電所事故が重なったことも、緊急災害対策本部の設置の背景にあります。単一の指標ではなく、複数の要因が総合的に考慮されている点がうかがえます。被害が全国規模に及ぶかどうかも、判断材料の一つになります。
災害緊急事態の布告との関係
災害対策基本法第105条は、非常災害が国の経済及び公共の福祉に重大な影響を及ぼすべき異常かつ激甚なものである場合に、内閣総理大臣が閣議にかけて災害緊急事態の布告を発することができると定めています。
同法第107条によると、この布告があったときは、当該災害に係る緊急災害対策本部がすでに設置されている場合を除き、内閣総理大臣は布告に係る地域を所管区域とする緊急災害対策本部を設置するものとされています。布告と本部設置が連動する仕組みです。
緊急災害対策本部への移行例が少ない背景
内閣府の設置状況の資料を見ると、緊急災害対策本部への移行は東日本大震災の1件にとどまります。令和6年能登半島地震や令和8年熊本地震のように大きな被害を伴う災害であっても、非常災害対策本部の段階で対応が進められてきました。
緊急災害対策本部の要件である著しく異常かつ激甚という基準が高く設定されていることに加え、非常災害対策本部の段階でも、令和3年の法改正により本部長が内閣総理大臣となったことで、迅速な対応体制が整えられるようになったことも背景にあります。
| 本部の種類 | 主な設置事例 | 設置回数の目安 |
|---|---|---|
| 非常災害対策本部 | 平成30年7月豪雨、令和元年台風第19号、令和6年能登半島地震、令和8年熊本地震など | 数十件 |
| 緊急災害対策本部 | 東日本大震災 | 1件 |
| 特定災害対策本部 | 令和4年台風第14号、令和6年能登半島地震(発災当日) | 数件 |
Q. 特定災害対策本部とはどのような組織ですか。
A. 令和3年の法改正で新設された組織で、地方公共団体では対応が難しい災害が発生した際に、防災担当大臣を本部長として設置されます。非常災害対策本部よりも設置の要件が緩やかです。
Q. 3つの本部は同時に設置されることがありますか。
A. 同一の災害については、特定災害対策本部が非常災害対策本部に切り替わる、あるいは非常災害対策本部が緊急災害対策本部に切り替わる形がとられ、複数の本部が並行して存在する形にはなりません。
- 緊急災害対策本部が設置されると非常災害対策本部は廃止され事務を引き継ぐ
- 切り替えの判断は被害の規模などをもとに内閣総理大臣が行う
- 災害緊急事態の布告があったときは緊急災害対策本部の設置につながる
- 緊急災害対策本部への移行例は東日本大震災の1件のみ
非常災害対策本部・緊急災害対策本部と混同されやすい組織
災害対策基本法には、非常災害対策本部と緊急災害対策本部のほかにも、似た名称の組織が定められています。この章では、混同しやすい組織との違いと、情報を確認する際に見ておきたい公式発表の場所を整理します。
特定災害対策本部との違い
特定災害対策本部は、災害対策基本法第23条の3に規定される組織で、令和3年の法改正で新設されました。地方公共団体では対応が困難な規模の災害が発生した場合に、防災担当大臣その他の国務大臣を本部長として設置されます。
非常災害対策本部や緊急災害対策本部と比べると、設置の要件は緩やかで、被害の規模もそれほど大きくない段階から設置される点が異なります。令和6年能登半島地震では、発災当日に特定災害対策本部が設置され、その後非常災害対策本部に切り替わっています。
地方公共団体が設置する災害対策本部との違い
災害対策基本法第23条は、都道府県又は市町村が、防災の推進を図るため必要があると認めるときに、地域防災計画の定めるところにより災害対策本部を設置できると定めています。本部長は都道府県知事又は市町村長が務めます。
非常災害対策本部や緊急災害対策本部が内閣府に設置される国の組織であるのに対し、地方公共団体の災害対策本部は、それぞれの自治体が設置する別の組織です。両者は連携しながらも、根拠となる条文も本部長も異なります。
原子力災害対策本部との違い
原子力災害対策本部は、原子力災害対策特別措置法に基づいて設置される組織で、原子力緊急事態宣言が発出された際に、内閣総理大臣を本部長として内閣府に設置されます。災害対策基本法ではなく、別の法律に根拠を持つ点が異なります。
平成23年の東日本大震災では、緊急災害対策本部に加えて、福島第一原子力発電所事故に対応するための原子力災害対策本部も設置されました。名称は似ていますが、根拠法令が異なる別の組織です。
情報を確認する際に見ておきたい公式発表の場所
非常災害対策本部や緊急災害対策本部の設置状況は、内閣府の防災情報のページで確認できます。設置期間や本部長などの情報が、災害ごとに整理されています。
個別の会議の様子や発言内容は、首相官邸のウェブサイトで随時公表されます。ニュースで本部の名称を目にしたときは、これらの公式ページで最新の情報を確認しておくと安心です。
非常災害対策本部と緊急災害対策本部のどちらが設置されているかを調べるときは、内閣府防災情報のページで名称と設置期間を確認する方法が確実です。ニュースの見出しだけでなく、公式ページの告示情報とあわせて確認するとよいでしょう。
- 特定災害対策本部は令和3年の法改正で新設された、より設置要件が緩やかな組織
- 地方公共団体の災害対策本部は自治体が設置する別組織
- 原子力災害対策本部は原子力災害対策特別措置法に基づく別の法律の組織
- 設置状況は内閣府防災情報のページで確認できる
まとめ
非常災害対策本部と緊急災害対策本部の違いは、設置される災害の規模、閣議決定の有無、本部長を務める人という3点に集約されます。どちらも災害対策基本法に基づいて内閣府に置かれる組織ですが、想定する被害の深刻さには明確な差があります。
ニュースで本部の名称を見かけたときは、まず内閣府防災情報のページで設置期間や告示内容を確認しておくと安心です。会議の名称に緊急の文字が入っているかどうかも、見分けの手がかりになります。
制度の位置づけを押さえておくと、災害対応に関する報道を、これまでよりも落ち着いて読み進められるようになります。
本記事の内容は執筆時点の公的情報をもとに整理したものです。制度・法令・人事等は変更される場合があるため、最新情報は各公式サイトでご確認ください。

