皇室典範第5条は、法律として「皇族」にあたる人の範囲を定めた条文です。ニュースで「親王」「内親王」「王妃」といった言葉を目にしても、それぞれがどのような身分で、なぜ天皇はそこに含まれないのかを正確に把握している人は多くないかもしれません。制度の根拠を知ることで、皇室に関する報道がより具体的に理解できるようになります。
皇室典範は昭和22年(1947年)に制定された法律で、皇位継承・摂政・皇族の身分・皇室会議などを定めた全5章37条の法令です。そのなかで第5条は第2章「皇族」の冒頭に置かれており、皇族の構成員を列挙した最も基本的な条文です。条文の言葉は短いながら、皇室制度全体の骨格を支える役割を果たしています。
この記事では、第5条の条文そのものを起点に、天皇が皇族に含まれない理由、第6条との関係、旧皇室典範との違い、皇族の身分を得る・離れる仕組みまでを順に整理します。皇室制度の基本を理解したい方に向けて、一次情報をもとにわかりやすくお伝えします。
皇室典範第5条の条文と皇族の定義
皇室典範第5条は、皇族に含まれる身分をひとつひとつ列挙した条文です。まずここを押さえることで、「誰が皇族か」を制度として確認できます。第6条以降の詳細規定も、この第5条が前提になっています。
第5条の条文
e-Gov法令検索に掲載されている皇室典範(昭和22年法律第3号)の第5条は次のとおりです。
「皇后、太皇太后、皇太后、親王、親王妃、内親王、王、王妃及び女王を皇族とする。」
この9つの身分が現行法における「皇族」です。宮内庁の公式サイト「皇族」ページでも、この条文を引用して皇族の範囲を示しています。条文が短い分、一語一語の意味をきちんと確認しておくことが理解の助けになります。
9つの身分それぞれの意味
条文に登場する9つの身分を整理すると次のようになります。皇后は天皇の配偶者、太皇太后は先々代の天皇の配偶者、皇太后は先代の天皇の配偶者です。この3つは天皇家の女性配偶者を世代別に区別したものです。
親王は天皇または歴代天皇の男系男子で2世まで、内親王は同じく女子で2世まで、王は男系男子で3世以下、女王は3世以下の女子です。親王妃は親王の配偶者となった女性、王妃は王の配偶者となった女性で、いずれも婚姻によって皇族の身分を取得します。
| 身分 | 区分 | 概要 |
|---|---|---|
| 皇后 | 天皇の配偶者 | 天皇の后 |
| 太皇太后 | 先々代の配偶者 | 先々代の天皇の后 |
| 皇太后 | 先代の配偶者 | 先代の天皇の后 |
| 親王 | 男系男子(2世まで) | 天皇の子・孫(男) |
| 親王妃 | 親王の配偶者 | 婚姻で取得 |
| 内親王 | 男系女子(2世まで) | 天皇の子・孫(女) |
| 王 | 男系男子(3世以下) | 曾孫以下(男) |
| 王妃 | 王の配偶者 | 婚姻で取得 |
| 女王 | 男系女子(3世以下) | 曾孫以下(女) |
天皇が皇族に含まれない理由
条文をよく見ると、天皇そのものは9つの身分に含まれていません。皇室典範第5条は「皇族」の定義規定であり、天皇は皇族とは別に日本国憲法第1条で地位が定められた独立した存在として扱われています。
法律上、「皇室」は天皇と皇族の両方を合わせた概念です。皇族は皇室の構成員でありながら、天皇とは制度上の位置づけが異なります。このため、天皇は第5条の列挙に入らず、皇族の権利・義務の規定は天皇には直接適用されない建て付けになっています。
- 第5条は「皇族」にあたる9つの身分を列挙した基本条文である
- 皇后・太皇太后・皇太后は世代別に区別された天皇家の女性配偶者
- 親王・内親王・王・女王は男系の血縁上の遠近で身分が分かれる
- 親王妃・王妃は婚姻によって皇族の身分を取得する
- 天皇は第5条の皇族には含まれず、憲法で独立して位置づけられている
第5条と第6条の関係—身分を決める2つのルール
第5条が皇族の身分の名称を定めるのに対し、第6条はその身分が具体的にどのような血縁の人に与えられるかを定めています。2条を合わせて読むことで、誰がどの身分になるかが初めて明確になります。
第6条が定める親王・内親王と王・女王の区別
皇室典範第6条は次のように定めています。嫡出の皇子と嫡男系嫡出の皇孫は、男を親王、女を内親王とします。三世以下の嫡男系嫡出の子孫は、男を王、女を女王とします。ここでいう「世」は歴代天皇からの血縁の遠近を示し、天皇の子が1世、孫が2世、曾孫が3世です。
つまり親王・内親王になれるのは2世まで(天皇の子と孫)で、それより遠い血縁の人は王・女王という身分になります。「嫡男系嫡出」とは、男系の正妻の子という意味で、正式な婚姻関係から生まれた子孫のみが対象になります。
旧皇室典範との違い
旧皇室典範(明治22年制定)では、天皇の1世から4世までの男子が親王、4世女子が内親王、5世以下が王・女王とされていました。現行の皇室典範(昭和22年制定)では、親王・内親王の範囲が2世までに縮小されています。
また旧典範では非嫡出の子孫も皇族とすることができましたが、現典範では嫡出子に限られています。範囲の縮小と嫡出限定という2つの変更が、現在の皇族数に直接影響しています。
・旧:4世まで親王/内親王、5世以下は王/女王
・現:2世まで親王/内親王、3世以下は王/女王
・旧:非嫡出の子孫も皇族になれる
・現:嫡男系嫡出に限定
第6条の「嫡男系嫡出」とは何か
「嫡男系嫡出」という言葉は、皇室典範の条文のなかで特に重要な概念です。「嫡男系」とは、男性を経由して連なる系統という意味です。「嫡出」は、正式な婚姻関係にある夫婦から生まれた子を指します。
これら2つの要件を合わせると、嫡男系嫡出の皇孫とは「男系をたどって天皇につながる、正妻から生まれた孫」を意味します。女系(母方を通じた系統)は含まれないため、皇族女子の子は嫡男系嫡出には当たりません。この点が皇室制度の基本構造のひとつです。
- 第6条は第5条の身分のうち親王/内親王・王/女王の区別基準を定める
- 2世まで(天皇の子・孫)が親王/内親王、3世以下が王/女王
- 旧典範では4世まで親王/内親王だったが、現典範で2世に縮小された
- 嫡出限定の制度変更が皇族の人数に直接影響している

皇族の身分を得る仕組みと特例法の位置づけ
皇室典範は皇族の身分を得る経路についても定めています。出生によって自動的に皇族になる場合と、婚姻によって身分を取得する場合の2種類があります。また、2017年(平成29年)に制定された皇室典範特例法もここに関連します。
出生による身分取得
皇室典範第6条が定めるとおり、嫡男系嫡出の血統に基づいて生まれた子は、出生とともに自動的に皇族の身分を取得します。男子であれば親王(または王)、女子であれば内親王(または女王)の身分です。
ただし、養子縁組による身分取得は認められません。皇室典範第9条は「天皇及び皇族は、養子をすることができない」と定めており、実子として嫡出子の地位を取得する以外に親王・王の身分を得る方法はありません。この規定は現行典範の制定時から変わっていません。
婚姻による身分取得
皇族以外の女性が皇族男子(親王・王)と婚姻した場合、その女性は婚姻によって親王妃または王妃の身分を取得します。これが第5条に列挙された親王妃・王妃の身分の取得方法です。宮内庁の公式ページでは、皇室典範第15条を根拠として「皇族以外の女子が皇后となる場合か皇族男子と婚姻する場合には、皇族の身分を取得する」と説明されています。
一方、皇族女子が皇族以外の男性と婚姻した場合は逆方向の扱いになります。皇室典範第12条によって、その女性は婚姻によって皇族の身分を離れることになります。皇族女子の配偶者が皇族になることはありません。
皇室典範特例法と第5条の関係
2017年(平成29年)6月に公布された「天皇の退位等に関する皇室典範特例法」は、上皇・上皇后という身分を新たに定めた法律です。上皇は皇室典範第5条の列挙にはありませんが、特例法の規定によって、皇室典範の事項については皇族の例に準じて扱うものとされています。
上皇后についても同様で、皇室典範上の皇太后の例によるとされています。特例法は皇室典範本体とは別の立法として制定されており、宮内庁の公式情報では「皇室典範の特例として一体をなすもの」と位置づけられています。
- 出生による身分取得は嫡男系嫡出の血統に基づき自動的に発生する
- 第9条で養子は禁止されており、実子以外の方法で親王・王になることはできない
- 皇族男子との婚姻によって親王妃・王妃の身分を取得する
- 皇族女子が皇族以外と婚姻すると、第12条により皇族の身分を離れる
- 上皇・上皇后は特例法によって皇族の例に準じて扱われる
皇族の身分を離れる仕組み
第5条が皇族の範囲を定めるのと対をなす形で、皇室典範は皇族の身分を離れる場合についても詳細に定めています。第11条から第14条にまたがるこれらの規定は、皇族の人数と皇室の構成に直接かかわるものです。
皇室典範が定める皇籍離脱の3つの場合
宮内庁の公式ページでは、皇族が身分を離れる場合として皇室典範第11条から第14条が挙げられています。大きく整理すると3つの場面があります。
第一に、15歳以上の内親王・王・女王は、本人の意思に基づき皇室会議の議決を経て皇族の身分を離れることができます(第11条)。親王(皇太子・皇太孫を除く)・内親王・王・女王は、やむを得ない特別の事由がある場合も同様に皇室会議を経て身分を離れます。第二に、皇族女子が天皇・皇族以外の者と婚姻したときは、婚姻によって自動的に皇族の身分を離れます(第12条)。第三に、親王または王の身分を離れる際には、その妃や直系の子孫も原則として同時に皇族の身分を離れます(第13条)。
皇族女子の婚姻と身分離脱
第12条の規定は、現在の皇室の人数にも直結する重要なルールです。内親王や女王が皇族以外の男性と婚姻すると、婚姻の時点で皇族の身分を自動的に離れます。この仕組みにより、皇族の人数は婚姻のたびに変動する可能性があります。
皇族の身分を離れた後は一般国民と同じ扱いになります。その後に生まれた子は嫡男系嫡出の血統をもつ場合でも、第6条の皇族規定は適用されません。制度上、一度皇族の身分を離れた後に戻ることはできません。
・本人の意思+皇室会議の議決(15歳以上の内親王・王・女王)
・やむを得ない特別の事由+皇室会議の議決(皇太子・皇太孫以外の親王等)
・皇族以外の者との婚姻(皇族女子は自動的に離脱)
・身分を離れる親王・王の妃・直系卑属も原則として同時に離脱
皇族の身分を離れることができない場合
皇太子と皇太孫は、やむを得ない特別の事由による皇籍離脱の対象から除外されています。第11条の第2項には「親王(皇太子及び皇太孫を除く。)」という括弧書きがあり、皇位継承に直接関わる立場にある者の離脱には特別の制限が設けられています。
また、皇族以外の男性は皇族になることができません。皇室典範第15条では「皇族以外の者及びその子孫は、女子が皇后となる場合及び皇族男子と婚姻する場合を除いては、皇族となることがない」と規定されています。男性が皇族女子と婚姻しても、その男性は皇族とはなりません。
- 15歳以上の内親王・王・女王は意思と皇室会議の議決によって身分を離れられる
- 皇族女子が皇族以外と婚姻すると第12条により自動的に皇族の身分を離れる
- 皇太子・皇太孫は特別事由による皇籍離脱の対象から除外されている
- 皇族以外の男性は皇族女子と婚姻しても皇族にはなれない
第5条が関連する皇室制度の今後の議論
皇室典範第5条は現行制度の基本ルールを定めていますが、皇族の人数や皇位継承のあり方をめぐる議論のなかで、第5条が定める範囲も制度論の文脈で取り上げられることがあります。ここでは制度の現状と公的な議論の状況を整理します。
現在の皇族構成
宮内庁の公式情報によると、現在の皇族はいずれも明治天皇の男系男子とその配偶者・未婚の男系女子で構成されています。1947年(昭和22年)の皇室典範施行時に11宮家51名が皇籍を離脱した経緯があり、その後も皇族女子の婚姻に伴う皇籍離脱が続いてきました。
その結果、現在の男性皇族の人数は限られており、将来の皇位継承や皇族の規模について国会や有識者会議での議論が続いています。最新の皇族の構成については、宮内庁公式サイトの「皇室の構成」ページでご確認ください。
皇室典範改正をめぐる議論の論点
政府の有識者会議や国会の場では、皇位継承の安定確保と皇族数の維持を目的とした制度改正の議論が行われています。論点として挙がっているのは、女性皇族が婚姻後も皇族にとどまれる仕組みの検討、旧皇族の男系男子孫が皇族に戻る方策の検討などです。
これらはいずれも現行の皇室典範第5条・第6条・第12条などの規定を前提とした制度論であり、具体的な法改正の方向はまだ国会で審議が続いています。特定の案への賛否は各論者によって異なるため、内閣官房や宮内庁の公式情報で最新の議論状況を確認するとよいでしょう。
制度の根拠を知ることの意味
皇室典範は全5章37条の比較的短い法律ですが、第5条から第15条にかけての皇族の身分規定は、皇室に関するニュースを理解する際の土台になります。「内親王が結婚すると皇族の身分を離れるのはなぜか」「上皇は皇族か」「養子ではなぜだめなのか」といった疑問の答えは、いずれも皇室典範の条文に直接根拠があります。
条文を手元に持つためにはe-Gov法令検索(https://laws.e-gov.go.jp)で「皇室典範」と検索するのが確実です。法令番号は昭和22年法律第3号です。
| よくある疑問 | 根拠条文 | 答え |
|---|---|---|
| 天皇は皇族か | 第5条 | 第5条の皇族には含まれない |
| 親王と王の違いは | 第6条 | 2世まで親王、3世以下が王 |
| 養子はなぜだめか | 第9条 | 天皇・皇族は養子をできないと規定 |
| 内親王が結婚するとどうなるか | 第12条 | 皇族以外と婚姻で自動的に身分離脱 |
| 上皇は皇族か | 特例法第3条 | 皇族の例に準じて扱われる |
- 皇室典範の条文はニュース理解の土台になる
- 皇族に関する制度改正の議論は現在も国会・有識者会議で続いている
- 最新の制度動向は内閣官房・宮内庁の公式情報で確認できる
- 条文の全文はe-Gov法令検索(昭和22年法律第3号)で入手できる
まとめ
皇室典範第5条は「皇后、太皇太后、皇太后、親王、親王妃、内親王、王、王妃及び女王を皇族とする」という9つの身分を定めた基本条文です。天皇はこの列挙に含まれず、憲法で独立して位置づけられています。第6条が「誰がどの身分か」を定める規定であり、2条を合わせて読むことで皇族制度の基本構造が理解できます。
制度をより深く知りたい場合は、e-Gov法令検索(https://laws.e-gov.go.jp)で「皇室典範」を検索し、条文を直接読んでみるとよいでしょう。第5条から第15条にかけての皇族身分の規定は、難解な用語が含まれますが、一条ずつ確認することで皇室に関する多くの疑問の答えが見えてきます。
皇室制度の理解が深まれば、ニュースで目にする皇室の出来事が制度の文脈でとらえやすくなります。引き続き関心のある方は、宮内庁の公式サイト(https://www.kunaicho.go.jp)も参考にしてみてください。
本記事は政治・法律・皇族に関する一般的な情報を、公的機関の一次情報・公式発表をもとに整理したものです。特定の個人・政党・思想を支持・批判する意図はありません。記事内の人物・発言・経歴などに関する情報は、公的資料・公式発表・信頼できる報道の範囲に限り、未確定・未公表の情報は断定しません。制度や法令の解釈・運用は変わる場合があります。最終的な判断や手続きについては、e-Gov法令検索・各省庁公式サイト・専門家(弁護士・行政書士等)にご確認ください。

