入管法改正案 賛成と反対のそれぞれの理由|国会で何が争われたか

日本人男性が議論する入管法改正案 政党と国会活動

入管法改正案は、賛成派と反対派の双方が真剣に向き合ってきた制度的論争です。「送還を円滑に進めるべきだ」という主張と「難民の命が危険にさらされる」という主張は、どちらも一定の根拠を持っており、単純な善悪では整理できません。2023年の国会では連日激しい議論が交わされ、可決後も市民社会や法律家から強い批判の声が上がりました。

この記事では、政府・賛成派・反対派それぞれの論拠を整理し、読者が自分で判断するための材料を提供します。入管法や難民制度の仕組みを知ることで、ニュースの背景が格段に見えやすくなります。

扱うのは主に2023年6月に成立した改正法です。この改正では、難民申請中の送還停止効の例外設定、収容に代わる監理措置制度の創設、補完的保護対象者の認定制度の新設などが柱となりました。各論点について、出入国在留管理庁の公式説明と反対側の主張をできるだけ対比しながら整理します。

一方、2024年には育成就労制度の創設・永住許可制度の見直しを内容とする別の改正も成立しています。この2本の改正を混同しないよう、本記事では主に2023年改正を取り上げ、2024年改正についても末尾で概要を補足します。

入管法改正案の背景と2023年改正までの経緯

2023年改正を理解するには、それ以前の制度的課題と2021年の廃案経緯を知っておく必要があります。出入国在留管理庁の公式資料では、改正に至った主な課題として「送還忌避問題」「収容の長期化」「紛争避難民の保護制度の不備」の3点が挙げられています。

送還忌避者の増加という問題

退去強制令書が発付されながらも送還されない外国人(送還忌避者)は、出入国在留管理庁の資料によると、2021年12月末時点で3,224人、2022年12月末の速報値では4,233人まで増加していました。このうち1,133人が前科を有し、515人が懲役1年超の実刑前科を持つとされています。

現行法では、難民認定申請中の外国人は申請回数や内容を問わず送還が停止される「送還停止効」があります。出入国在留管理庁は、この制度を悪用して申請を繰り返すことで送還を回避する事例があると問題視しました。また、自国民の受け取りを拒否する国が一部存在すること、航空機内で暴れるなど搭乗を拒否される事案も送還の障害として挙げられています。

収容の長期化と2021年廃案の経緯

収容が長期化する主因は、送還できないまま収容が続くためです。長期収容は被収容者の健康問題を生じさせ、拒食(ハンガーストライキ)や治療拒否など施設内でのトラブルにもつながると指摘されていました。

2021年3月、名古屋出入国在留管理局に収容されていたスリランカ人女性、ウィシュマ・サンダマリさんが死亡する事案が発生しました。この事案が社会的に大きく注目を集め、入管行政の在り方を問う声が高まりました。同年の改正法案は、この経緯もあって廃案となっています。その後、2023年に骨格を維持した改正案が再提出され、6月9日に成立しました。

2021年廃案から2023年成立までの変化

2023年改正案は、2021年廃案案から一部の修正が加えられています。主な変更点は、収容の全件収容原則を改め個別事案ごとに監理措置か収容かを判断する仕組みの整備、3か月ごとに収容継続の要否を見直す規定の追加、監理人への定期的な届出義務の削除などです。参議院法務委員会の調査資料にもこの変化が記録されています。

2023年参院本会議では自民・公明・日本維新の会・国民民主党の賛成多数で可決・成立しました。反対票を投じたのは立憲民主党・日本共産党・社会民主党などです。

【2023年改正の主な3本柱】
1. 送還停止効の例外設定(3回目以降の申請者などを対象)
2. 収容に代わる「監理措置」制度の創設
3. 補完的保護対象者の認定制度の新設
  • 送還忌避者は2022年末時点で4,000人超に増加していた
  • 2021年のウィシュマさん死亡事案が制度見直しの一つの契機となった
  • 2023年改正案は2021年廃案案の骨格を維持しつつ一部修正された
  • 国会採決では与党・維新・国民民主が賛成、立憲・共産・社民が反対した

賛成派の主な理由と政府の説明

賛成側の論拠は、主に「送還忌避問題の解決」「収容制度の改善」「難民保護の強化」の3方向に整理できます。出入国在留管理庁の公式ページでは、改正の基本的考え方として「保護すべき者を確実に保護する」「在留が認められない外国人は速やかに退去させる」「不必要な収容はしない」の3点が明記されています。

送還停止効の見直しによる制度の適正化

政府の説明によれば、現行制度では難民申請を繰り返すことで事実上無期限に送還を回避できる状態にあり、申請を「誤用・濫用」する者が一部存在するとしています。改正案では、3回目以降の申請者、3年以上の実刑前科を持つ者、テロリスト等については送還停止効の例外とし、速やかに退去させることが可能になります。

ただし、3回目以降の申請でも、難民または補完的保護対象者と認定すべき「相当の理由がある資料」を提出すれば、例外の例外として送還停止効が維持されます。政府はこの仕組みによって、保護が必要な人は保護しつつ、制度の悪用を防ぐことが可能になると説明しています。

収容に代わる監理措置制度の意義

改正前の入管法では、退去すべきことが確定した外国人は原則として収容施設に収容する「全件収容主義」がとられていました。改正法では、個別事案ごとに逃亡リスクと本人の受ける不利益を考慮した上で、収容か監理措置かを判断する仕組みに転換されました。

監理措置とは、親族や知人など監理人を立て、その監督下で施設外に居住しながら退去強制手続きを進める制度です。収容された場合でも3か月ごとに継続の要否を見直す規定が設けられ、政府はこれによって「全件収容主義は抜本的に改められる」と説明しています。

補完的保護制度による難民保護の拡充

難民条約上の「難民」に該当するには、人種・宗教・国籍・特定の社会的集団への所属・政治的意見の5つのいずれかを理由に迫害を受けるおそれがあることが必要です。しかし、紛争から逃れた人々はこの5つに必ずしも当てはまらないため、難民認定を受けられない場合があります。

改正法では「補完的保護対象者」として、難民条約の難民には該当しないものの迫害を受けるおそれがある外国人を認定し、難民と同様に定住者の在留資格を与える制度が新設されました。2022年以降に日本が受け入れたウクライナ避難民などへの対応は法務大臣の裁量で行われていましたが、この制度が根拠となる法的な枠組みを整えたものです。

改正点賛成派の主な説明
送還停止効の例外設定制度の誤用・濫用を防ぎ、在留が認められない人を適切に送還できる
監理措置制度の創設全件収容主義を改め、不必要な収容を減らせる
補完的保護対象者の認定紛争避難民など難民条約外の保護が必要な人を制度的に守れる
在留特別許可の申請手続き整備考慮事情を法律上明確化し、透明性が高まる
  • 送還停止効の例外は「相当な理由がある資料」の提出で例外が維持される仕組みになっている
  • 全件収容主義を個別判断に転換する点は、賛成派が「改善」として強調した点の一つ
  • 補完的保護制度は欧州諸国でもすでに導入されており、国際水準への接近とも評価された

反対派の主な理由と懸念

反対派の論点は、主に「難民保護の後退」「司法審査の不備」「監理措置の設計上の問題」の3方向に整理できます。日本弁護士連合会・第一東京弁護士会などの法律専門家団体、国連人権理事会の専門家、ヒューマン・ライツ・ウォッチなど国際人権機関が反対意見を表明しました。

ノン・ルフールマン原則への抵触という指摘

反対派が最も強く主張した論点の一つが、国際法上の「ノン・ルフールマン原則」への抵触です。この原則は、生命や自由が脅かされる可能性のある国へ外国人を送還・追放してはならないとするもので、難民条約第33条にも規定されています。

第一東京弁護士会の声明では、「3回目以降の難民申請者でも難民等と認定すべき相当の理由がある資料を提出した場合に送還停止効が維持されるとの例外規定が設けられているが、その判断を裁判所等の第三者が審査する仕組みがない」と指摘しています。つまり、保護が必要であるかの判断が入管当局の内部判断に委ねられており、誤送還が起きた場合に歯止めとなる仕組みが十分でないという懸念です。

難民認定率の低さと独立審査機関の不在

入管法改正案の賛否と論点の整理

反対派が繰り返し指摘したのが、日本の難民認定率の低さです。ヒューマン・ライツ・ウォッチによれば、2022年に難民と認定されたのは申請者3,772人のうち202人でした。政府は「難民条約の定義に基づく個別判断の結果であり、単純に国際比較することは適当でない」とし、在留許可を得た者を含めた庇護率は2022年時点で約29.8%(ウクライナ・ミャンマー・アフガニスタン向けの措置を加えると約70.9%)と答弁しました。

一方、反対派は難民認定を出入国管理と同じ機関(入管庁)が担っていることを問題視しました。「管理と保護は時として衝突する。第三者機関による公正中立な判断が必要だ」というのが野党発議の難民等保護法案の趣旨でした。この対案は会期終了とともに廃案となっています。

監理措置と収容制度への批判

監理措置制度に対しても、反対側から具体的な問題点が挙げられました。第一東京弁護士会の声明によれば、監理人には主任審査官が生活状況等の報告を求めた際に制裁を伴う報告義務が課されるとされており、支援者や弁護士が被監理者を支援する立場と、当局への報告義務を負う立場を同時に担わされる設計になっているという指摘です。

また、収容期間に上限が設けられていない点も継続して批判されました。3か月ごとの見直し規定は設けられたものの、上限なしの収容が法的に継続可能である点について、国連自由権規約委員会は「収容期間に上限を設けること」「実効的な司法審査が受けられるようにすること」を日本政府に勧告していました。

【反対派の主な懸念点】
・3回目以降の申請者への送還は、ノン・ルフールマン原則に反するおそれがある
・送還停止効の例外適用を判断するのが入管当局のみで、第三者・司法の関与がない
・難民認定率が低いまま送還を可能にすることへの懸念
・収容期間の上限がなく、実効的な司法審査が導入されなかった
  • 国連人権理事会の専門家らは「国際人権基準を満たしていない」として抜本的見直しを求める共同書簡を送った
  • ヒューマン・ライツ・ウォッチは2023年6月、改正法が難民申請者に新たな障壁を作ると批判した
  • 野党4党は難民等保護法案を対案として提出したが、会期終了により廃案となった

賛成・反対双方の論点を対比して整理する

賛成派と反対派の主張は、同じ制度の異なる側面を見ている部分が多くあります。どちらの主張が正しいというよりも、何を優先するかによって評価が分かれる構造になっています。ここでは主要な論点を対比します。

送還停止効の見直しをどう評価するか

賛成派は「難民申請を繰り返すことで送還を回避する事例があり、制度の適正化が必要」と主張します。出入国在留管理庁の資料では、2022年末時点で4,000人超の送還忌避者がおり、そのうち相当数が前科を持つとされています。

これに対し反対派は、「3回目以降であっても、真に保護が必要な人が含まれている可能性があり、その判断を入管庁だけに委ねることは危険だ」と反論します。申請回数で一律に扱うことへの懸念です。両者の主張は「制度悪用への対応」と「真の難民保護」のどちらを優先するかという価値観の違いでもあります。

監理措置制度はプラスかマイナスか

賛成派は全件収容主義の改善として評価します。逃亡リスクや本人への不利益を考慮した個別判断への転換は、不必要な収容の抑制につながるという説明です。国際社会でも「収容の代替措置」の整備は求められており、制度の方向性は正しいという見方です。

反対派は、監理人(弁護士・支援者など)に制裁を伴う報告義務が課される点を問題視します。支援する立場と当局への報告義務を担う立場が矛盾するという設計上の批判です。また、収容の可否判断に司法が関与しない点も引き続き批判されました。

補完的保護制度は難民保護の強化か、不十分な措置か

賛成派は、これまで法務大臣の裁量に委ねられていた紛争避難民の保護に法的根拠を与えたとして評価します。ウクライナ避難民をはじめ、難民条約上の5つの要件に当てはまらない保護が必要な外国人を確実に守れるようになると説明しています。

反対派は、補完的保護制度の創設自体は一定の前進と認めながらも、「難民条約の5つの迫害理由以外の理由を補うものに過ぎず、難民認定制度そのものの不備には対応していない」と指摘します。また、難民認定手続きの透明性や独立性が改善されていないことで、補完的保護の運用も適切になされるかどうか疑問が残るという見方もあります。

論点賛成側の評価反対側の評価
送還停止効の例外制度の悪用を防ぎ、退去強制手続きを適正化できる真の難民が送還されるリスクがあり、ノン・ルフールマン原則に反する可能性がある
監理措置制度全件収容主義を改め、不必要な収容を削減できる監理人への報告義務が支援活動と矛盾し、司法関与もない
補完的保護認定紛争避難民を法的に保護できる制度が生まれた難民認定制度の根本的な改善にはなっていない
収容期間3か月ごとの見直しで長期収容を抑制できる上限がなく、実効的な司法審査が導入されなかった
  • 賛成派・反対派の対立は「制度の適正化」と「人権保護の国際基準」をどのように比較衡量するかで分かれる
  • 難民認定制度の第三者機関設置については、野党提出の対案には盛り込まれていたが廃案となった
  • 国連の各機関は改正前後を通じて日本政府に国際基準への適合を繰り返し求めている

2024年改正と最新動向

2023年の難民・収容・送還に関する改正とは別に、2024年には外国人労働者の在留制度に関する大きな改正が成立しています。主な内容として育成就労制度の創設と永住許可制度の見直しがあり、この2本の改正はしばしば混同されます。

育成就労制度の創設と技能実習制度の廃止

2024年改正では、長年にわたり問題が指摘されてきた技能実習制度を廃止し、新たに「育成就労」制度が創設されました。技能実習制度は本来「技術移転による国際貢献」を名目としていましたが、実態として低賃金労働者の確保手段になっているという批判が続いていました。

育成就労制度は人材育成と人材確保の両立を目的とし、一定の条件を満たせば転職も認める方向で設計されています。特定技能制度との接続も整備され、段階的なキャリアアップの経路が明確化されました。

永住許可制度の見直しとその論点

2024年改正では永住許可制度も見直され、永住者が税金・社会保険料の滞納や在留カードの常時携帯義務違反などを行った場合に永住資格を取り消す規定が追加されました。政府は「永住許可の要件を一層明確化し、基準を満たさなくなった場合等の取消事由を追加するが、特段の事情がない限り在留資格を変更して引き続き在留を許可する」と説明しています。

これに対し大阪弁護士会など複数の弁護士会は、永住者の地位を不安定にする大きな制度変更だと懸念を表明しました。立憲民主党は修正案には賛成したものの、永住外国人の権利や安心を脅かす側面があると附則への配慮明記を求めています。2024年改正の詳細については、出入国在留管理庁の公式サイトまたは厚生労働省の育成就労関係ページで最新の施行状況を確認できます。

2025年以降の動向について

2023年改正の施行後の運用状況、補完的保護認定の件数、監理措置の実績などについては、出入国在留管理庁が公式サイトで順次公表しています。また、2024年改正に基づく育成就労制度の施行状況や永住許可制度の運用基準については、出入国在留管理庁の公式ウェブサイトの「育成就労・永住許可」関連ページで最新情報を確認されることをおすすめします。

【2023年改正と2024年改正の違い】
2023年改正:難民認定・収容・送還に関するルール変更が中心
2024年改正:技能実習制度の廃止・育成就労制度の創設・永住許可制度の見直しが中心
2本の改正は別の法律が改正されており、報道では混同されやすいので注意が必要です。
  • 技能実習制度の廃止・育成就労制度の創設は2024年改正の柱
  • 永住許可の取消事由追加については弁護士会から懸念表明あり
  • 最新の施行状況は出入国在留管理庁の公式サイトで確認できる

まとめ

入管法改正案をめぐる賛成・反対の論点は、制度の適正化という観点と国際的な難民・人権保護基準のどちらをより重視するかで大きく分かれます。政府・賛成派は「送還忌避の解消」「不必要な収容の削減」「紛争避難民の制度的保護」を改正の柱として説明しました。一方、弁護士会・国際人権機関・反対派は「ノン・ルフールマン原則への抵触リスク」「難民認定の独立審査の不在」「収容期間上限の未設定」を問題点として指摘しました。

この問題に関心を持った方は、まず出入国在留管理庁の公式ページにある「入管法改正案について」(https://www.moj.go.jp/isa/laws/bill/05_00007.html)と参議院の調査資料(「立法と調査」460号)を読むことから始めると、一次情報に基づく理解が深まります。

賛否が明確に分かれる政策課題だからこそ、一方の主張だけを参照するのではなく、複数の立場の論拠を確認してみてください。制度の是非を自分で判断するための材料が、公開情報の中にきちんと整理されています。

本記事の内容は執筆時点の公的情報をもとに整理したものです。制度・法令・人事等は変更される場合があるため、最新情報は各公式サイトでご確認ください。

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