ニュースで「投票率が低い」「得票数で接戦」といった言葉を聞くことがありますが、実際のところ「投票数」と「得票数」は何が違うのでしょうか。どちらも選挙に関わる数字ですが、意味は大きく異なります。
このページでは、得票数と投票数の違いを一言で理解できるように整理し、さらに選挙の仕組みや得票率・投票率の関係までをやさしく解説します。用語を正しく理解することで、ニュースや選挙結果を自分の言葉で読み解けるようになります。
政治に詳しくない方でも、選挙報道や公的資料の内容をスッと理解できるようになることを目指して、図や具体例を交えながら説明していきます。
得票数 投票数 違いをやさしく解説(まずは結論)
まず最初に、「得票数」と「投票数」の違いを一言で整理してみましょう。選挙では多くの人が投票を行いますが、全員の票が同じ候補者に入るわけではありません。この「投じられた票の総数」と「候補者が実際に獲得した票数」は、別の概念です。
得票数とは:候補者・政党が実際に集めた票
得票数とは、候補者や政党が実際に有効票として得た票の数のことです。つまり、「誰に票が集まったか」を示す数字です。選挙後の開票結果で「A候補の得票数○○票」と発表されるのは、この数字を指します。
この得票数が多いほど、候補者が有権者からの支持を得ていることを意味しますが、当選には一定の基準を超える必要があります。比例代表制では政党ごとの得票数も重要な役割を持ちます。
投票数とは:投票所で投じられた票の総数
投票数とは、その選挙で投じられた全ての票の合計です。有効票だけでなく、書き間違いなどで無効となった票も含まれます。総務省などが公表する「投票総数」には、有効票と無効票の両方が含まれることを覚えておきましょう。
つまり、投票数は「投票箱に入った票の数」であり、得票数は「各候補者が獲得した票の内訳」という関係です。両者を混同しないことが、選挙結果を正しく理解する第一歩です。
有効票と無効票:区別のしかた
有効票とは、候補者名や政党名が正しく記入され、集計対象になる票を指します。反対に、候補者名が不明確だったり、複数の名前が書かれている票は無効票となります。この判定は開票所で厳密に行われます。
一方で、無効票の割合が高い選挙では、有権者の意思が十分に反映されない場合もあります。そのため、正しく記入して投票することも重要な市民の責任です。
一言での違いと覚え方(箱の数 vs 中身の配分)
イメージで言えば、「投票数」は“投票箱に入った紙の総数”、“得票数”は“その中身を誰がどれだけもらったか”です。つまり、投票数は全体の数、得票数はその内訳という関係です。
例えば、投票数が1万票であっても、そのうちA候補が6,000票、B候補が4,000票を得たとすれば、A候補の得票数は6,000となります。このように、「箱の数(投票)」と「中身の配分(得票)」をセットで理解するとわかりやすいでしょう。
投票数=投じられた票の総数。得票数=候補者や政党が得た票数。つまり、「母数」と「内訳」の関係です。
具体例:たとえば市長選で有権者が10万人いて、投票した人が6万人だった場合、投票数は6万です。そのうちA候補が3.2万票、B候補が2.8万票なら、A候補の得票数は3.2万票となります。
- 投票数は「投じられた票の合計」
- 得票数は「候補者や政党が得た票の数」
- 有効票と無効票を区別することが重要
- 投票箱=投票数、中身の配分=得票数
基本用語と数え方の基礎知識
次に、選挙で使われる「投票総数」や「得票率」「法定得票数」など、ニュースや選挙管理委員会の発表でよく見る言葉を整理します。こうした基本用語を理解しておくと、報道で使われる数字の意味が格段にわかりやすくなります。
投票総数・有効投票・無効投票の関係
投票総数とは、その選挙で投じられた票の合計で、有効票と無効票を合わせた数です。開票結果では通常、「投票総数=有効投票+無効投票」として発表されます。たとえば投票総数1万票のうち、無効票が100票なら、有効投票数は9,900票となります。
この「有効投票数」は、後で得票率を計算する際の分母として使われます。したがって、無効票が多いと、候補者の得票率にも影響が出る場合があります。
得票率・投票率の意味と使い分け
投票率とは「有権者のうち、実際に投票した人の割合」を示す指標です。一方、得票率は「有効投票数に対する各候補者の得票の割合」です。両者を混同してしまうと、選挙結果の理解を誤るおそれがあります。
例えば有権者10万人のうち6万人が投票した場合、投票率は60%。そのうちA候補が3万票を得れば、得票率は(3万÷有効投票数)×100で計算されます。
法定得票数(当選に必要な最低ライン)
法定得票数とは、公職選挙法で定められた「当選するために必要な最低限の得票数」のことです。選挙の種類によって異なりますが、例えば比例代表制では政党が議席を得るために一定の得票率を超える必要があります。
この仕組みは、極端に支持が少ない候補者や政党が当選することを防ぐために設けられています。法定得票数に達しない場合、たとえ他の候補より多く票を得ていても当選できないことがあります。
供託金没収点の考え方
選挙では、候補者が立候補する際に「供託金」を納めます。この供託金は、一定の得票数に届かない場合、没収される仕組みです。その基準となるのが「供託金没収点」と呼ばれる得票数のラインです。
没収点を超えれば供託金は返還され、届かない場合は国庫に納められます。これも、いたずら的な立候補を防ぐための制度として設けられています。
同数得票時の扱い(くじ等のルール)
得票数が同じ場合、つまり複数の候補が同点で並んだときはどうなるでしょうか。この場合、公職選挙法では「くじ」によって当選者を決めると定められています。市議選などでは実際にくじ引きで当落が決まった例もあります。
つまり、同数得票はまれですが、ルールに従い公正に決着がつけられる仕組みが法律で明確に定められています。
投票率=投票した人の割合。得票率=有効票に対する割合。
法定得票数と供託金没収点は「当選の条件」と「立候補の責任」を示す仕組みです。
ミニQ&A:
Q1. 投票率と得票率はどちらが重要?
A1. どちらも重要ですが、候補者の支持の強さを示すのは得票率です。投票率は参加度を示す指標です。
Q2. 得票が同じなら両方当選?
A2. いいえ。法律上はくじなどで1人に決定されます。
- 投票総数=有効投票+無効投票
- 投票率と得票率は分母が違う
- 法定得票数は「当選の最低ライン」
- 供託金没収点は立候補の責任を伴う制度
- 同数得票時はくじで決定される
計算方法と指標を具体例で理解
ここでは、投票率や得票率など、選挙ニュースで頻繁に登場する数字の計算方法を見ていきます。選挙報道をより深く理解するためには、「どんな分母を使っているか」を意識することが大切です。
投票率の計算:分母(有権者数)に注意
投票率とは「有権者のうち、実際に投票した人の割合」を示す数字です。つまり、分母は「選挙人名簿に登録された有権者数」、分子は「投票した人数」です。計算式は「投票率=(投票者数÷有権者数)×100」となります。
例えば有権者が10万人で、そのうち6万人が投票した場合、投票率は60%です。選挙の関心度や参加意識を示す重要な指標で、国政選挙や地方選挙ごとに大きな差が見られます。
得票率の計算:有効投票数を分母にする理由
得票率とは、「有効投票数に対する各候補者の得票割合」を表します。分母は有効投票数、分子は候補者の得票数です。無効票を含めないのは、実際に集計対象となる票の中での割合を示すためです。
例えば有効投票数9,000票、A候補の得票が3,000票であれば、得票率は(3,000÷9,000)×100=33.3%となります。この数字は候補者の「支持の強さ」を読み取る際に重要です。
小数点がつく得票の理由(端数処理・あん分)
選挙結果の表で「得票数:1,234.567票」のように小数点以下がある場合があります。これは、比例代表制のように「政党の票を候補者に按分(あんぶん)」して計算する際に、小数が発生するためです。
つまり、政党が得た票を名簿内の候補者に割り振る際、機械的な計算で票を分けるため小数点が出るのです。最終的には四捨五入などのルールに基づいて集計されます。
開票速報と確定値の読み方
開票速報は、開票作業が途中の段階での集計値をリアルタイムで発表するものです。したがって、速報時点では誤差や未集計票が含まれる場合があります。
最終的な「確定値」は、全ての投票箱の開票が完了した後に選挙管理委員会が公表します。速報値との差が出るのは、期日前投票や郵送投票の計上タイミングが異なるためです。
投票率=投票者÷有権者、得票率=得票数÷有効投票。
小数点の得票は比例代表などの按分処理によるものです。
具体例:参議院比例代表でA党が200万票を得て、名簿の候補者が10人の場合、単純計算で1人あたり20万票とされますが、実際には票が均等でないため小数が発生します。
- 投票率と得票率は分母が異なる
- 得票率は有効票のみを対象とする
- 比例代表制では票が按分され小数が出る
- 速報値と確定値の違いを意識する
比例代表制の配分ルールを図解で理解
比例代表制では、候補者ではなく政党に投じられた得票をもとに議席数を配分します。この仕組みを理解しておくと、「得票数は多いのに議席が少ない」などの疑問が解けます。
ドント方式の仕組みと計算手順
日本の比例代表制では、議席配分に「ドント方式」が用いられています。政党の得票数を1、2、3…と順に割り算し、その商の大きい順に議席を配分する方法です。単純ながら公平性が高いとされています。
例えば、A党が300万票、B党が200万票、C党が100万票を得て、10議席を配分する場合、A党が5議席、B党が3議席、C党が2議席という結果になります。
名簿順位・拘束名簿と非拘束名簿の違い
比例代表の候補者は「名簿」に登録されます。拘束名簿では政党が順位をあらかじめ決め、上位から当選します。一方、非拘束名簿では、有権者が候補者名を記入し、得票数の多い順に当選が決まります。
日本の参議院比例代表は非拘束名簿方式であり、有権者が個人名で投票できるのが特徴です。
政党得票と議席配分の関係
比例代表では、政党の得票数がそのまま議席数に結びつきます。したがって、政党の得票を増やすことが議席獲得につながる仕組みです。小選挙区と違い、地域による偏りを抑える効果があります。
そのため、比例代表では「党全体の支持」を示す指標として得票率が重視されます。
比例代表で票が小数になる場面(端数と調整)
議席を配分する際、最後の1議席をどの政党に与えるかを決める段階で、同じ割り算の結果になることがあります。この場合、端数処理のルールに基づいて最終的な議席数を調整します。
また、政党内で候補者への票を按分する際に小数点が発生し、最終得票数として小数が残ることもあります。これが、開票結果に「0.3票」「0.7票」といった数値が現れる理由です。
ドント方式=割り算で順位を決める配分法。
比例代表制では「個人より政党の票」が重視されます。
ミニQ&A:
Q1. ドント方式は難しそうですが、公平ですか?
A1. はい。得票数に比例して議席を割り振るため、全体としてバランスが取れる仕組みです。
Q2. 小選挙区との違いは?
A2. 小選挙区は1人を選ぶ方式、比例代表は政党全体を選ぶ方式です。
- 比例代表では政党の票が議席を決める
- ドント方式は割り算で議席を配分
- 名簿の順位方式には2種類ある
- 小数点付きの得票は按分や端数処理の結果
「得票が多いのに落選?」が起きる理由
選挙結果を見ていると、「得票が多いのに落選」という不思議なケースが見られます。なぜこのようなことが起こるのでしょうか。その背景には、選挙制度の仕組みや定数の違いが関係しています。
単記非移譲式(中選挙的な複数定数)での順位
日本の地方議会選挙などでは、1つの選挙区から複数の当選者を選ぶ「中選挙区制」に近い形が使われることがあります。この場合、得票数が多くても「定数(当選できる人数)」の枠外になると落選します。
例えば定数3の選挙区で4人が立候補し、4人目が3位と僅差でも、4位であれば落選です。このように、当選できる人数が限られているため、「得票数が多いのに落選」という結果が生まれるのです。
選挙区と比例の仕組みの差
小選挙区では、1つの選挙区で最も多く票を得た候補だけが当選します。一方で比例代表制では、政党全体の得票で議席を分けます。そのため、個人の得票が多くても、所属政党の得票が少なければ議席に届かない場合があります。
このように、個人票だけでなく政党全体の票の動きも結果に影響するのが、比例代表制の特徴です。
定数・得票分布・カットラインの影響
当落を分ける要因のひとつに「カットライン(当選ライン)」があります。これは、当選圏内に入るために必要な得票数を指します。得票が多くても、全体の得票分布によってはラインに届かないことがあります。
例えば、全体の投票が均等に分かれた場合、わずかな差で順位が入れ替わることも珍しくありません。ニュースで「得票差わずか100票」などと報じられるのはこのためです。
最多得票でも当選できないケースの実例
比例代表制では、政党の得票を基準に議席を配分するため、個人として最多得票を得ても、政党が議席を確保できなければ当選できません。実際、過去の参議院選挙では、個人得票が最も多かったにもかかわらず、政党全体の議席数が足りず落選した例があります。
つまり、選挙では「誰が何票取ったか」だけでなく、「どの枠組みで競っているか」が重要なのです。
得票数が多くても落選するのは、定数や制度の仕組みの影響。
個人得票よりも、選挙区・政党単位のルールが優先されます。
ミニQ&A:
Q1. 「惜敗率」とは何ですか?
A1. 落選者の得票を、当選者の得票で割った割合です。どれだけ接戦だったかを示す指標です。
Q2. 当選ラインは誰が決めるのですか?
A2. ライン自体を決める人はいません。開票の結果、得票順に上位から定数分が当選者となる仕組みです。
- 定数を超えると得票が多くても落選
- 小選挙区は1位のみ当選、比例は政党単位
- カットラインで当落が決まる
- 個人の得票より制度全体の構造が重要
データの読み解き方と実務に役立つチェック
最後に、選挙のデータをどう読み解くか、そしてニュースを正しく理解するためのチェックポイントを紹介します。得票数や投票率を単なる数字としてではなく、「民意を映す指標」として見ることが大切です。
公的発表(総務省・選管サイト)の見方
選挙結果を調べる際は、まず公的な情報源を確認しましょう。総務省や各自治体の選挙管理委員会が発表する「開票結果」「投票状況」は最も信頼できる一次情報です。
特に総務省のサイトでは、全国の投票率や得票数、無効票数などが一覧で確認できます。報道機関の速報値よりも、公式データを基準にすると誤解を防げます。
グラフ化・比較のコツ(地域別・年代別)
得票数や投票率を理解するには、地域ごと・年代ごとに比較するのが有効です。例えば都市部では投票率が低く、地方では高い傾向があります。グラフ化することで、投票行動の特徴が視覚的にわかります。
また、過去の選挙との比較を行うと、有権者の意識の変化も読み取ることができます。
報道で混同しやすい表現と確認ポイント
ニュースでは「得票数」と「投票数」が混同されて報じられることもあります。たとえば「投票総数が伸びた」と聞くと有権者の関心が高まったように思えますが、実際には有効票数や得票率が下がる場合もあります。
言葉の違いを理解していれば、報道の見出しだけでなく中身を冷静に読み解くことができます。
中学生にも伝わるまとめ方(授業・家庭学習向け)
得票数と投票数の違いは、学校の授業でもよく扱われます。たとえば「クラスで班長を選ぶ」場面を想像するとわかりやすいです。投票用紙を出した全員の数が投票数、最も多く票を集めた人の票が得票数です。
このように身近な例で考えることで、政治や選挙を「自分ごと」として理解できるようになります。家庭での会話のきっかけにもなるでしょう。
一次情報は総務省など公的機関を参照。
得票率・投票率の違いを意識してデータを読むことが重要です。
具体例:例えば、A市とB市の選挙結果を比べると、A市は投票率70%で得票率60%、B市は投票率50%で得票率80%というケースもあります。この場合、B市の候補は少数の有権者から強い支持を受けたことがわかります。
- 信頼できる情報源を確認する
- 地域や年代で比較すると傾向が見える
- 報道の言葉づかいを正しく理解する
- 身近な例で考えると理解が深まる
まとめ
「得票数」と「投票数」は似ているようで、実際にはまったく異なる意味を持つ言葉です。投票数は投票所に投じられた票の総数、得票数は候補者や政党が実際に得た票の数を指します。この区別を理解することで、選挙結果やニュースの数字を正確に読み取れるようになります。
また、投票率や得票率、法定得票数などの関連指標も、選挙制度を理解するうえで欠かせません。特に比例代表制では、政党の得票が議席配分を左右する仕組みとなっており、「得票が多くても落選」が起こる理由にもつながります。
ニュースで見かける数字の背景には、こうした制度やルールが存在します。数字だけで判断せず、「どの基準で計算されているのか」「どんな制度で選ばれているのか」を意識することで、政治や社会の動きをより深く理解できるようになるでしょう。


