選挙のたびにSNSが話題になりますが、「どこまで投稿していいの?」と迷う方も多いのではないでしょうか。選挙期間中の発信には、公職選挙法(こうしょくせんきょほう)で定められたルールがあり、うっかり違反してしまう可能性もあります。
この記事では、SNSでの選挙投稿に関する禁止事項とOK・NGの境界線をわかりやすく整理します。有権者や候補者がSNSを使う際の注意点を、時期別・立場別に具体例を交えて解説。安心して発信するために知っておきたい基本をまとめました。
「いいね」「リポスト」「ストーリー」など、普段の何気ない操作も状況によっては違反になることがあります。選挙期間中にSNSを利用する前に、まずはこの記事で全体像を確認しておきましょう。
選挙のSNS禁止事項:まず知っておく基本
まず最初に、SNSに関する選挙の禁止事項とは何を指すのかを整理しておきましょう。SNSは、候補者や有権者の声を広く伝える便利な手段ですが、選挙運動に関しては法律の定めがあり、特定の行為が制限されています。
SNSが選挙で果たす役割と「禁止事項」の位置づけ
SNSは情報発信の自由度が高く、選挙の情報共有や意見表明の場として大きな役割を持っています。しかし、公職選挙法によって選挙運動の方法や期間が定められており、自由な発言にも一定の制限がかかります。つまり、選挙に関する発信には「政治活動」と「選挙運動」の線引きが重要なのです。
公職選挙法とネット選挙の基本用語(やさしい解説)
「公職選挙法」とは、候補者や有権者が公正に選挙を行うためのルールを定めた法律です。2013年の法改正により、インターネットを使った選挙運動が解禁されましたが、誰でも自由に投稿できるわけではありません。発信の対象や方法によっては、違法とされる場合があります。
OK/NGを分ける考え方:目的・時期・主体・手段
選挙期間中のSNS発信でOKかNGかを判断するには、次の4つの視点がポイントです。①目的(単なる意見か、投票依頼か)②時期(公示前・期間中・当日)③主体(候補者・政党・有権者)④手段(投稿・メッセージ・広告)。この4軸を意識することで、判断ミスを防ぎやすくなります。
よくある誤解:拡散・いいね・引用の扱い
例えば「他人の投稿をリポストする」「いいねを押す」といった行為も、内容によっては選挙運動とみなされる場合があります。特定候補の支持を呼びかける投稿に「いいね」しただけでも、影響を与えると判断される可能性があるため注意が必要です。
迷ったときの判断フロー(まず確認する3点)
投稿前に確認すべきポイントは、「誰に」「何を」「いつ」伝えるかの3つです。誰(有権者・候補者)に向けた内容か、何(政策説明・投票依頼)を伝えるか、そしていつ(選挙期間前・中・当日)に発信するか。この3点を整理すれば、ほとんどのケースで判断がつきます。
具体例:たとえば「◯◯候補の演説が良かった!」という感想投稿は基本的にOKですが、「◯◯さんに投票しましょう!」と呼びかける内容はNGです。表現のトーンで意味が変わる点に注意が必要です。
- SNSは便利だが、選挙運動には制限がある
- 公職選挙法の理解が違反防止の第一歩
- 目的・時期・主体・手段でOK/NGを判断
- 「いいね」「リポスト」も場合によっては違反
- 迷ったら3点チェック(誰に・何を・いつ)
時期別ルール:公示前・期間中・投票日当日の違い
次に、選挙の「時期」によって変わるSNSルールを見ていきます。公職選挙法では、選挙運動ができる期間が明確に定められており、それ以外の時期の発信には制限があります。ここを誤ると「期日前違反」「当日違反」として処罰対象になることもあります。
公示前に避けたいSNS行為と注意点
公示前はまだ正式な選挙運動期間ではないため、「◯◯候補を応援しよう」といった投稿は認められません。政策紹介や意見表明は可能ですが、投票を呼びかける意図が含まれると違反と判断されることがあります。候補者や支援者は、発信内容のトーンを慎重に見極めることが大切です。
選挙期間中にできること/やってはいけないこと
公示日から投票日前日までは「選挙運動期間」と呼ばれます。この間、候補者や政党は一定の条件下でSNSを使った選挙運動が可能です。ただし、匿名アカウントによる投稿や、他人になりすました行為は明確に禁止されています。また、誹謗中傷や虚偽の情報発信も違反です。
投票日当日のSNS発信でNGになる典型例
投票日当日は、すべての人に対して選挙運動が禁止されます。つまり、「◯◯に投票しました」「みんな◯◯さんを応援しよう」などの投稿はアウトです。投票を促す目的がなくても、誤解を与える表現は避けるのが安全です。
「お願い投稿」はいつまで?期間と線引き
投票依頼の投稿は、投票日前日の23時59分までに行う必要があります。日付をまたいで自動投稿される予約ツイートなどは違反になる可能性があるため、設定には注意が必要です。SNSの時間管理機能を使う場合も、送信時刻を必ず確認しましょう。
当日トラブルを避けるための前日チェック
投票日前日は、SNS投稿や自動更新の設定を見直す日と考えましょう。予約投稿が残っていないか、選挙関連のハッシュタグが設定されていないかを確認するだけでも、違反防止につながります。
時期 | OKな行為 | NGな行為 |
---|---|---|
公示前 | 政策紹介・意見投稿 | 投票依頼・応援呼びかけ |
期間中 | 候補者の公式発信 | 匿名・なりすまし投稿 |
投票日当日 | 投票に関する個人的感想 | 投票依頼・応援コメント |
具体例:「今日は投票日!みんなで行こう!」という投稿はOKですが、「◯◯さんに投票しましょう!」はNGです。意図の違いで結果が大きく変わります。
- 選挙運動は公示日から投票日前日までが対象
- 公示前の応援投稿は違反になる可能性あり
- 投票日当日は一切の選挙運動が禁止
- 予約投稿・自動更新にも注意
- 前日チェックでトラブルを防ぐ
主体別ルール:有権者がSNSでしてよいこと・いけないこと
ここでは、有権者の立場でSNSを使う際に注意すべきポイントを見ていきます。公職選挙法では、有権者が意見を発信する自由を認めていますが、その内容が「投票を呼びかける」行為に当たると違反となるおそれがあります。
一般の有権者ができる応援表現と限界
有権者は、特定の候補者や政党に対して「支持している」と表明すること自体は問題ありません。しかし、「投票してください」「一緒に応援しましょう」といった呼びかけを含む投稿は選挙運動と見なされます。感想と依頼の境界を意識して表現することが大切です。
未成年者の扱いと保護者が気を付けたい点
18歳未満の未成年者は、選挙運動を行うことが法律で禁止されています。SNS投稿も同様に、特定候補を応援する内容は避けなければなりません。親が子どものアカウントを利用して投稿させる行為も違法と判断される場合があります。
なりすまし・誹謗中傷・デマ拡散のリスク
候補者や政党になりすましたり、虚偽情報を流す行為は、名誉毀損や業務妨害に該当することがあります。また、悪意がなくても誤情報を拡散した場合には、拡散者が責任を問われることもあります。情報源を確認してから共有する習慣をつけましょう。
DM・グループ招待・リプライの線引き
ダイレクトメッセージやグループチャットで特定候補への投票を依頼する行為は、選挙運動とみなされます。一方、一般的な政策議論や意見交換は問題ありません。発信の意図が「投票依頼」になるかどうかを冷静に判断することがポイントです。
通報・削除依頼など問題発生時の初動
もしSNS上で誤情報や誹謗中傷を見つけた場合は、各プラットフォームの通報機能を利用するほか、選挙管理委員会に相談することもできます。無理に反論せず、スクリーンショットなどの記録を残すことが大切です。
具体例:「◯◯候補の政策に共感しました!」という投稿はOKですが、「◯◯候補に投票してください!」はNGです。わずかな表現の違いでも法的な扱いが変わることがあります。
- 有権者は意見表明OKだが、投票依頼はNG
- 未成年はSNSでも選挙運動禁止
- なりすまし・誹謗中傷は厳しく処罰される
- DMやグループでの呼びかけも注意
- 問題発生時は通報と記録保存を優先
主体別ルール:候補者・政党のSNS運用での禁止事項
次に、候補者や政党がSNSを使って発信する際のルールを見ていきましょう。法律では、選挙運動を行う主体ごとに定められた規制があります。特に、公式アカウントでの投稿内容や広告配信には厳しい基準が設けられています。
発信時に必須の表示事項と記載漏れリスク
候補者や政党がSNSで選挙運動を行う場合は、投稿やウェブサイトに「発行者氏名」「連絡先」などの表示が義務付けられています。これを怠ると、公職選挙法第142条の3違反となり、罰則の対象になることがあります。透明性を確保するため、発信元を明確にすることが重要です。
広告配信・有料プロモーションの可否と条件
有料広告の利用については、原則として政党のみが許可されています。候補者や個人が広告を出すことはできません。SNSの広告設定で「プロモーション投稿」を使用する際は、発信者の属性によって可否が変わるため、公式ガイドラインを確認しましょう。
メール・メッセージ機能の取り扱い(誰が送れるか)
選挙運動用の電子メールを送信できるのは、候補者と政党に限られています。一般の有権者がこれを転送すると違反です。一方で、FacebookやLINEなどの「メッセージ機能」での発信は、一定条件のもとで許可されています。
スタッフ・ボランティアが守るべきガイドライン
候補者を支援するボランティアやスタッフも、選挙運動の一環としてSNSを利用する際には、候補者本人と同様のルールに従う必要があります。特に、個人アカウントでの拡散や応援コメントは、誤解を招きやすいため慎重に対応しましょう。
炎上・違反疑い時の対応プロセス
違反の疑いが持たれた場合は、速やかに投稿を削除し、選挙管理委員会や法律の専門家に相談することが求められます。放置していると「違反を認めた」と見なされることもあるため、初動対応の速さが鍵になります。
禁止事項 | 対象主体 | 罰則 |
---|---|---|
連絡先の未記載 | 候補者・政党 | 過料・警告処分 |
個人広告の出稿 | 候補者個人 | 削除命令・罰金 |
スタッフによる無断拡散 | 支援者 | 候補者側に連帯責任 |
ミニQ&A:
Q1:候補者の家族がSNSで応援投稿してもよい?
A1:家族であっても「投票依頼」を含む投稿はNGです。感想や報告の範囲にとどめましょう。
Q2:ボランティアが撮影した写真を投稿してもいい?
A2:候補者の承認があり、法定表示を守っていればOKです。無断投稿は避けましょう。
- 候補者・政党の発信には表示義務がある
- 広告は政党のみが出稿可能
- メール送信は候補者・政党に限定
- ボランティアも同じルールを守る必要あり
- 疑わしい投稿は即時削除と相談が原則
SNS別の注意点:X(旧Twitter)・LINE・Instagram・YouTube・TikTok
ここからは、代表的なSNSごとに異なる注意点を見ていきましょう。各プラットフォームには独自の機能があり、それぞれの特性を理解して運用することが大切です。投稿形式や拡散の仕組みによっては、意図せず違反につながる場合もあります。
X:引用・リポスト・ハッシュタグ運動の注意点
X(旧Twitter)では、他人の投稿を「リポスト」したり「いいね」することで、自分のタイムラインにも表示されます。選挙期間中に特定候補への支持を呼びかける投稿をリポストする行為は、選挙運動とみなされる可能性が高いです。ハッシュタグを使った応援運動も慎重に扱いましょう。
LINE:個別メッセージ・オープンチャットの扱い
LINEは私的な通信手段として広く使われていますが、個別メッセージで特定候補への投票を呼びかけるのは違反です。一方で、グループ内での一般的な政策議論や情報共有は問題ありません。オープンチャットでの投稿は公共性が高いため、特に注意が必要です。
Instagram:ストーリーズ・タグ付け・リンク導線
Instagramでは、ストーリーズやタグ付けを通じた応援投稿が拡散されやすいのが特徴です。ストーリーズで候補者の投稿をシェアするだけでも「投票依頼」と解釈される場合があります。また、プロフィール欄に候補者サイトへのリンクを貼る場合は、選挙期間中のみ許可されるケースがあります。
YouTube:ライブ配信・コメント管理・サムネ表現
YouTubeを利用する際は、ライブ配信やコメント欄の管理が重要です。視聴者が投稿するコメント内容に違反が含まれる場合、放置すると運営者側が責任を問われることもあります。タイトルやサムネイルに投票依頼の文言を入れることも避けましょう。
TikTok:短尺動画の表現とBGM・デュエット機能

TikTokでは短い動画が多く、音楽や効果音を用いた投稿が主流です。候補者名を繰り返すBGMや、他人の応援動画にデュエットで参加する行為は、選挙運動と判断される可能性があります。SNSごとに表現の自由度が異なることを理解しておきましょう。
具体例:たとえば、Instagramのストーリーズで「◯◯候補最高!」という投稿をシェアした場合、それが投票依頼とみなされることがあります。無意識のシェアが違反につながるケースもあるため、投稿前に確認が必要です。
- XやLINEは拡散範囲に注意
- Instagramはタグ付け・リンクの扱いに注意
- YouTubeではコメント管理が重要
- TikTokはBGMや編集表現で違反になる場合あり
- 各SNSの特性を理解して発信することが大切
違反例と学び:過去のニュースから見える落とし穴
これまでの選挙では、SNSを巡るトラブルや違反がいくつも報道されてきました。ここでは、実際の事例から学べるポイントを紹介します。違反の内容を知ることで、同じ過ちを防ぐことができます。
当日更新・お願い投稿で問題になったケース
投票日当日に「◯◯候補に清き一票を!」と投稿したケースでは、選挙運動とみなされ違反に問われました。たとえ自分の意思表示でも、他者への影響を与える表現は選挙運動にあたる可能性があります。投票日当日の発信は慎重にしましょう。
なりすましや虚偽情報が問われたケース
実在する候補者になりすまし、偽アカウントで情報を拡散した事例もあります。こうした行為は公職選挙法だけでなく、刑法上の名誉毀損罪や偽計業務妨害罪にも該当します。意図的なデマだけでなく、誤情報を引用する行為も責任を問われることがあります。
第三者の拡散行為で責任が問われたケース
他人の投稿をリポストしただけであっても、その内容が選挙運動に当たる場合には、拡散者も処罰対象になることがあります。「自分は書いていないから大丈夫」と思わず、内容を確認してからシェアしましょう。
処罰・行政指導のパターンと影響
違反が確認されると、警告・過料・罰金・公民権停止など、さまざまな処分が科される可能性があります。候補者だけでなく、支援者や一般市民も対象になることがあるため、SNSの使い方には十分注意が必要です。
再発防止のための運用ルール例
多くの政党や自治体では、SNS運用マニュアルを作成して、投稿前のダブルチェックを徹底しています。投稿内容の確認や自動予約の管理など、チーム全体でルールを共有することがトラブル防止につながります。
ミニQ&A:
Q1:過去の投稿をリポストしただけでも違反になる?
A1:選挙期間中に再投稿した時点で「新たな選挙運動」と見なされる可能性があります。時期を確認しましょう。
Q2:匿名で投稿すれば見つからない?
A2:SNS事業者は投稿記録を保持しており、調査により特定される場合があります。匿名でも違反は違反です。
- 違反は「意図せず行うケース」が多い
- なりすまし・誤情報は刑事罰の対象
- 拡散だけでも責任が問われることがある
- 行政指導・罰金・公民権停止のリスクあり
- マニュアルとチェック体制で再発防止を
実務に使える:チェックリスト・テンプレ・Q&A
ここでは、日常的にSNSを使う方や、選挙関連の発信に関わる方がすぐに実践できるチェックリストや早見表を紹介します。内容を確認しながら投稿すれば、違反のリスクを大幅に下げることができます。
今日から使えるSNS運用チェックリスト
選挙期間中にSNSを利用する際は、次の項目を確認してから投稿する習慣をつけましょう。特に自動投稿やタグ設定は見落としやすいポイントです。チームや家族で共有して使うのも効果的です。
OK/NG早見表(時期×主体×手段)
投稿の可否を判断する際には、「いつ」「誰が」「どう使うか」の3軸を押さえましょう。次の表を参考にすれば、SNSの使い方を整理しやすくなります。
時期 | 有権者 | 候補者・政党 |
---|---|---|
公示前 | 意見投稿のみOK | 準備・周知まで |
選挙期間中 | 応援や感想はOK/投票依頼NG | 公式発信・表示義務あり |
投票日当日 | 投票報告のみOK | 一切の発信禁止 |
よくある質問:いいね/リポスト/引用の可否
SNSでは、短い操作でも選挙運動とみなされる可能性があります。たとえば、候補者への「いいね」や「リポスト」は、その内容によって違法になることがあります。単なる共感表明か、投票依頼を意図したものかを意識して判断することが重要です。
トラブル時の連絡先・記録の残し方
違反が疑われる投稿や、誹謗中傷を受けた場合には、証拠を残して関係機関に相談することが重要です。スクリーンショットや投稿URLを保存し、都道府県の選挙管理委員会やSNSのサポート窓口に報告しましょう。
安心して発信するための社内外体制づくり
政党や団体でSNSを運用する場合は、担当者を明確にし、投稿ルールを文書化しておくと安心です。発信前の確認フローを設け、複数人でチェックする体制を作ることで、ヒューマンエラーによる違反を防止できます。
具体例:たとえば、チームでSNSを運用している場合、「公示前投稿の制限」「予約投稿の停止」「選挙当日の自動配信禁止」などを共通ルールとして明文化しておくと、安全な発信体制を維持できます。
- 投稿前に内容と時期をチェックする習慣を
- OK/NG早見表を活用して判断を簡略化
- 「いいね」や「リポスト」も内容次第で違反
- 誹謗中傷や違反投稿は記録を残して相談
- チーム運用では複数人チェックを徹底
まとめ
選挙期間中のSNS利用には、公職選挙法で定められた明確なルールがあります。SNSは手軽な発信手段である一方、発言の意図や時期を誤ると違反になることもあります。特に「投票依頼」や「応援呼びかけ」は、期間外や当日に行うと処罰の対象になる可能性があります。
また、有権者・候補者・政党それぞれに異なる制限があり、未成年や一般市民でも注意が必要です。SNSごとの機能や拡散方法の違いを理解し、投稿前に「誰が」「いつ」「何を」伝えるのかを意識することが大切です。
日々の発信を安全に行うためには、チェックリストや社内外の確認体制を整えておくことが有効です。SNSは上手に使えば政治参加を広げる力にもなります。正しい知識を身につけ、健全な選挙文化の一員として安心して情報発信を続けましょう。